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Special Interview 松岡茉優

お笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹氏による恋愛小説「劇場」が映画化。
ヒロイン役の松岡さんは、この作品で初の恋愛映画に挑んだ。
誰もが胸に秘める不器用で忘れられない恋をどのように演じたのか


パートナーとの関係に悩んだり迷っている人たちが救われる
そんな映画になっていると思う


 映画の原作「劇場」は又吉氏が芥川賞受賞作「火花」よりも前に書き始めていた、作家としての原点とも言える恋愛小説。劇作家を目指す主人公の永田と、彼を必死に支えようとする恋人・ 沙希の生涯忘れることのできない7年間を描く。
 永田は演劇に身も心も捧げながら、 実生活では社会や周囲の人々と協調できない不器用な男。そんな彼を健気に支える沙希の儚くも愛しい姿や切ない表情が、観客の胸を打つ。恋人同士の何気ないやりとりには、自分自身の過去を重ねる人も少なくないだろう。
「台本を読んだときに、もしこの役がやれたら救われたと思ってくれる人がたくさんいるんじゃないかなと思いました。年齢を重ねると色々なリミットが迫ってきたと感じて、まったく望んでいない選択をせざるを得ないことが増えてくる。周りと自分を比べて落ち込みながらも、やっぱりこの人と一緒にいたいけどどうしたらいいんだろうって悩んだり。ジェンダーは問わず、パートナーとの関係に迷っている人たち、端から見ると恋人に振り回されて いる人たちを救えたらいいなって」
 いつも笑顔で明るい沙希とは対照的 に、人見知りで不器用な永田。沙希は永田のどこに惹かれたのか。
「沙希はとにかく人に好かれたい、誰からも嫌われたくないから色々な子と仲良くするし、誰にでも平等に笑顔を向ける人。でも永田は分かる人だけが分かれば良いという考え方で、人に媚びない。もちろん永田も人に嫌われたくない、認められたいと思っているだろうけど、沙希から見てそういう自分と違う魅力を持った永田に最初は惹かれたのかな」
 一緒に過ごす時間が長くなるほど、 誤解やすれ違いからぶつかってしまうことも。中でも、沙希が永田に自分の気持ちを吐き出すシーンが印象的だったと振り返る。
「あのシーンはもう本当に辛かったです。脚本家の蓬莱さんは男性なのに、なんでこんなに女性の気持ちが分かるんだろうって怖くなったくらい。セリフの言い方などはあまり決めていなかったけど、いざ本番になったら意外と大きな声が出るし、怒りで床を叩いちゃうし、私が想定していたよりも沙希はずっと我慢していたんだなって気づきました。似たような経験が誰しもあると思うので、見た人の心に何かひっかかって欲しいなと思います。後半は笑顔でいられるシーンはあまりなくて辛い場面のほうが多かったけど、台本の中には永田と沙希が生きていて、そこに“命”を感じたから、そのパワーに後押しされて頑張れました」
 今や日本映画に欠かせない実力派として、多くの話題作に出演している松岡さん。同じ“表現者”としての視点から、演劇に対する理想と現実のはざまで苦悩する永田に共感できる部分はあったのだろうか。
「私も何本か舞台に出演させていただいて、永田と近い職業ではありますが、ちっとも分かりたくないです(笑)。 でも沙希にとって永田と付き合っている時間がムダだったわけではなくて、他人には分からないけど本人たちは生涯忘れられない、人生において大事なポイントのひとつになったはず。途中で逃げ出すことなく、永田に向き合い切ったんだという満足感が彼女の中にはあると思う。諦めずに向き合い切った! という、割と清々しい気持ちでいると思いたいですね」
 永田が立ち上げた劇団「おろか」の劇団員を演じる伊藤沙莉さんとは、プライベートで“親友”と呼び合う仲。 永田と沙希を見守る役どころを、伊藤さんが演じてくれて嬉しかったという。
「悩んだり壁にぶつかったときは、ツイッターのように沙莉にメールを送ります。私はそれをサイリッターと呼ん でいるんですけど(笑)。返信はいらないから読んでくれるだけでいいという、私にとっての裏アカウントみたいな感じ。それか、母親あてのママッターのどちらかに自分の気持ちを吐き出して、嫌なことは忘れます」
 多方面から引っ張りだこの松岡さんは、現在25 歳。これから年齢とキャリアを重ねていく中で、目指したい理想 の女性像とは?
「映画『万引き家族』で樹木希林さん、安藤サクラさんに出会って、私の中での女優のイメージが再構築されました。キレイで素敵でナチュラルな暮らしをして、誰からも愛されるのが女優 さんだと思っていたけれど、それだけではなくて、お二人には日々の生活者としての時間があって。例えばスーパーの特売を気にかけたり、残ったおせち料理をタッパーに詰めて撮影現場に持ってこられたりする姿を見て、私もそうありたいと思いました。贅沢をしすぎたり日々の生活をないがしろにすると、私がやりたいお芝居からは遠のいてしまうし、演じられない役がたくさん出てきてしまう。それは絶対にやってはいけないと思っています」



PHOTO / Hirohiko Eguchi(Linx)
STYLING / Yusuke Arimoto(7回の裏)
HAIR & MAKE / Ai Miyamoto(yosine.)
TEXT / Yukari Tanaka


Profile
1995年2月16日生まれ。2008年に本格デビューし、『桐島、部活やめるってよ』、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」などで注目を集める。初主演映画『勝手にふるえてろ』で第42回日本アカデミー賞優秀主演女優賞、TAMA 映画賞最優秀女優賞、『万引き家族』で第42回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、『蜜蜂と遠雷』で第43回日本アカデミー賞優秀主演女優賞など受賞歴多数。2020年は『騙し絵の牙』が控える。

衣装/ワンピース 29,000 円(税抜) Estella.K


Vegas 「劇場」
 原作/「劇場」又吉直樹著(新潮社刊)
 監督/行定勲 脚本/蓬莱竜太 音楽/曽我部恵一
 出演/山﨑賢人、松岡茉優、寛 一 郎、伊藤沙莉 他
 公開/4月17日(金)全国ロードショー

(C)2020「劇場」製作委員会