ホーム > Pick up Interview 成 河

Pick up Interview 成 河

サムは最後に何を選ぶのか?
奥に隠されたメッセージを一緒に考えて欲しい

  ニューヨークの超人気レストランの予約電話受付係と予約をもぎ取ろうと電話をかけてくる様々なお客様との電話のやりとりを客観的に観せるという舞台で、1999年にニューヨークで初演され大絶讃された傑作コメディ『フリー・コミティッド』。その主人公である電話受付係のサムを演じるのが成河さん、いや、違う。彼が演じるのはすべての登場人物、その数なんと38役! 初のひとり芝居で全38役を演じるのはどれだけ大変なことだろう…。真っ先に浮かんだ質問を成河さんにぶつけると、想像に反した答えが返って来た。
 「大変なのはひとり38役だからではないんです。どうにかして予約を取ろうとする人たちの面白い行動が描かれたこの作品はニューヨークのあるある話。話し方のイントネーションだったり、階級や人種だったり、いろんな違いのパターンを出すことで『あー、わかるわかる!』とリアリティを持って観てもらえるから面白いわけで、それを日本語に置き換えたからって全然伝わらないんですね。38役の違いを強調するだけならそれは芸人さんの物まね芸を見に行く方が断然面白い。外国人物まね一発芸をやり続ける90分になってしまう。それは僕のやることではないと思い、この作品のオファーが来た時はお返事を先延ばしにしていました」
 たしかに、すでに満席の店へ電話して強引にでも予約をもぎ取ろうとする。この感覚は日本人にはピンと来ないかもしれない。
 「そうなんですよ。でもそれじゃこのお芝居の根底をくつがえしてしまうし『NYの人たちってそうなんだ』で終わってしまうと、演劇として面白くない。でも脚本を何度も読み返すうちに、この作品が描いているのは都会暮らしというリアリティだということに気づきました。ニューヨークでも東京でも根底の部分は同じ。都会の暮らしのスピード感、そこで暮らすストレスをきっちりと描いた作品だということにやっと気づいたとき、それを届けられるならやる意味があるんじゃないかとオファーを受けることにしたんです」
 『都会で生きるということは他人の要求に振り回される。サムはそれを象徴しているんです』と成河さんは話す。
 「みなさんスマホを持って、ニュースやSNSをチェックしながらご飯食べてませんか? 同時に色んなことをしてるけど、その目的が何だったのか見失っていませんか? これは自分で選んだことなのか、頼まれたことなのか、よくわからなくなってると思うんです。この舞台はそういうお話なんだって気づいたときに自分の中にものすごく高揚感があって、都会で生きる人たちへのエールを送ってくれてると思いました。この作品には自分の意思を持って選びとろうというメッセージが込められているんです。電話の対応にてんやわんやするサムが最後に選び取るものは何か? ひとり38役という表面的な楽しさもあるけれど、そこばかりに注目せず、その奥に隠されたメッセージを一緒に考えてもらえたら嬉しいですね」
 公演は約1ヶ月間。1日2公演の日もあるというハードスケジュール。38役を演じながら自分に戻る時間はあるのだろうか?
 「これは僕の意見なんですけど、舞台においてオンとオフを切り替えることが必ずしもいい結果を生まないと思っているんです。ありのままが1番というか。例えば体調が悪かったり、疲れていたり、イヤなことがあったり…。仕事となるとそれらの感情をシャットアウトしなきゃいけないんですけど、舞台はそうじゃないこともある。その状態や心情を持ち込むことでよりよくなったりもするんです。毎日、昨日とは違う自分というものに対してきちんとアンテナを張ることで、自分の中に新しいリアリティが生まれて役が生きかえる。だから舞台は毎日同じことをやっているようで全然違うんです。その時にしか出会えない舞台を観に来て欲しいです」


TEXT / Satoko Nemoto
PHOTO / Isamu Ebisawa
STYLIST / Midori Ichikawa
HAIR&MAKE / Yuka Yamashita
衣装/GRAND GLOBAL 下北沢店 03-3411-9234

Profile/1981年生まれ。大学時代から演劇を始め舞台を中心に活躍。平成20年度文化庁芸術祭演劇部門新人賞、第18回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season花、『黒蜥蜴』などの舞台をはじめ、TVドラマでは、NHK朝ドラ『マッサン』ほか映画『美女と野獣』ではユアン・マクレガー演じるルミエールの吹き替えを担当。

Vegas「フリー・コミティッド」
 作/ベッキー・モード 翻訳/常田景子
 演出/千葉哲也 出演/成河
 東京公演/6月28日(木)~7月22日(日)
 会場/DDD 青山クロスシアター(渋谷)




■Cover Interview 池田エライザ