
ライフステージに沿った健康課題の解決を。女性医療の究極の目標は、“ウェルビーイング”であり“ウェルエイジング”
2020年からフェムテック分野に参入しているテイジンは、機能性食品素材事業として展開する女性向けプロバイオティクスをテーマに、メディアセミナーを開催しました。
近年はフェムケアやフェムテックがトレンドとなっていますが、更年期分野ではどのように活用され、健康課題の解決に取り組まれているのでしょうか。
更年期症状へのリテラシー向上が必須となる
セミナーは二部制で行われ、第一部は女性医療・医学のパイオニアとしてこの分野を長年けん引する太田博明先生が登壇しました。
今の日本は5人に1人が後期高齢者であり、50年後には10人に1人が100歳を超える長寿国家です。太田先生は、更年期だけではなく、それ以降の健康の維持・増進を目指す中高年健康維持外来を創設し、女性の生涯にわたるウェルエイジングをライフワークとされています。
「閉経後に発症しやすい更年期障害や骨粗しょう症などの認知率は60%だが、治療率はその約半分にとどまる。GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)においても過小診断・過小治療から、同様の治療不足が危惧されている。更年期症状に対するリテラシーの向上は必須だろう。
フェムテック、フェムケアが提唱されて4年が経つが、サポートシステムは今のところWEB上の医療相談と一部サプリメントしかない。この状況は更年期分野でのフェムテックの活用が容易ではないことを物語っている」と語りました。
新たなフェムケアとして期待が寄せられる、プロバイオティクス
日本でも普及し始めた月経痛に対するホルモン治療に続いて、マイクロバイオームの変化への対応も必要だと訴えます。
マイクロバイオームは、ヒトの体に共生する細菌、真菌、ウイルスの総体で、近年はヒトの健康や不眠、うつ病、自閉症などの各疾患に密接に関係することが明らかになってきました。
マイクロバイオームは腟内にも存在し、その中の乳酸菌の一種であるラクトバチルスは性感染症、早産、子宮頸がんなどの発症リスクを低減するとされています。
閉経後はラクトバチルスが減少するため、欠乏した乳酸菌補充療法など、閉経による腟内細菌層の変容に対して医学的に対処する必要があります。
また、セルフケアの一つとして、腟内の乳酸菌を増やすためのサプリメント原料・素材として開発されたのが、「GR–1」と「RC–14」株で構成される乳酸菌UREXです。2021年に、日本で初めて腟内の調子を整える機能性表示食品となりました。
「腟内フローラを健全に保つことが、女性のウェルビーイングに直結する。この二つの乳酸菌によって、腟内環境を良好にすることが可能となった。
女性医療をリードする北米学会では、腟内フローラに起因する各種感染症の治療の主体は抗生物質ではなく、乳酸菌が有意になるようシフトすべきとしている。
それにはエストロゲンが必要だが、日本では入手できないため、新たなフェムケアであるプロバイオティクスの乳酸菌の可能性が現在は注目されている」
第二部は、太田先生と室伏由佳先生によるトークセッションを開催。美容・医療ジャーナリストの海野由利子さんがファシリテーターを務めました。
室伏先生は陸上選手として活躍する一方で婦人科の疾患に悩まされ、病気と向き合いながら選手生活を送っていたと言います。
現在は若いやせた女性の健康課題の研究や内閣府SIPプロジェクトで社会実装活動をしており、日本は先進国の中で最もやせた女性の割合が高い実情をご紹介いただきました。
やせの女性は成年・成人期の月経不順や無月経、更年期・高齢期には糖尿病や骨粗しょう症などのリスクが高くなることが分かっていて、個人に適した健康教育や情報提供が重要だと語りました。
トークセッションでは、女性の切実な悩みや疑問を取り上げ、ディスカッションが行われました。
お話を伺った人

川崎医科大学 産婦人科学 特任教授
総合医療センター 産婦人科 特任部長
太田博明 先生
女性の生涯にわたる「ウェルエイジング」をライフワークとし、女性医療・医学のパイオニアとして、今なお第一線での研究と啓蒙を続ける。
今年の日本産科婦人科学会(於:岡山市)でも、外来診療から得た「細菌性腟症」の知見を自ら発表。骨粗鬆症・骨代謝・抗加齢医学の分野でもわが国のトップランナーの一人。
受賞歴は、「日本更年期と加齢のヘルスケア学会・学会賞」(2017年)、「日本骨代謝学会・学会賞」(2020年)、「日本骨粗鬆症学会・功労者顕彰」(2024年)など。

順天堂大学 スポーツ健康科学部 先任准教授
マイウェルボディ協議会 副代表幹事
室伏由佳 先生
スポーツ健康科学博士。2004年アテネオリンピック陸上競技女子ハンマー投出場。女子円盤投、ハンマー投2種目で世界選手権出場。選手時代は腰痛症や婦人科疾患などの健康課題に直面。2012年競技生活引退。
現在、やせた若い女性の健康課題やアンチ・ドーピング教育に関する研究に取り組んでいる。内閣府SIPプログラムにおけるやせた女性の健康課題改善プロジェクトに参画し、社会実装を担うマイウェルボディ協議会の副代表幹事として推進している。
「GSM」=「閉経関連泌尿生殖器症候群」とは?

“閉経関連”と言う病名ですが、45歳以降問題となることが多い、近年、疾患とされた比較的新しい病気です。
しかしその病態自体は、以前から閉経前後の女性を悩ませて来た諸症状で、女性ホルモンの代表と言えるエストロゲンが低下する、出産後、授乳中、乳がん治療、子宮筋腫や子宮内膜症などの偽閉経療法などのホルモン治療の間にもみられ、性器症状や性交症状、尿路症状の3つが主な症状として挙げられます。
デリケートな悩みに寄り添う「乳酸菌UREX®」って?
「乳酸菌UREX®」※は、腟内フローラを正常化する乳酸菌「Lactobacillus rhamnosus, GR-1™」※と、「Lactobacillus reuteri, RC-14™」※の2つの乳酸菌の総称です。
腟内フローラのサポートに着目し、女性のために開発された腟内フローラ専用の乳酸菌で、他の乳酸菌に比べて腟内での滞在時間が長いことが分かっています。
また、「乳酸菌UREX®」を継続摂取した女性は、腟内フローラの乱れた状態が改善され、その後も腟内フローラの良い状態が継続しているという研究結果も報告されています※。
※「UREX」はクリスチャン・ハンセン社の登録商標です。※「GR-1」「RC-14」はクリスチャン・ハンセン社の商標です。
※出典 : Reid et al. J.Med.Food 2004:223-228. Reid et al. FEMS Immunol.Med.Microbiol, 2003;35:131-134
女性の約8割が不調を感じている!?
Q:デリケートゾーンの不調を感じますか?

※出典 : 論文 原田美由紀(First published: 04 March 2024)
日本の 20 代~ 50 代女性 1,000 名を対象に調査(2024年)
ヘルスケア分野で「食」に関する事業を展開する帝人(株)が、女性の体の不調やデリケートゾーン悩みについて調査を実施。東京大学の原田美由紀先生が論文報告をされています。
アンケート調査では、約80%の女性がデリケートゾーンの不調を感じたことがあるという結果が。さらに、その中の約77.5%は症状について相談する相手がいないという調査結果もあり、多くの女性が不調を感じていながらも、我慢してしまいがちなことも明らかに。
更年期障害やGSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)といった疾患だけでなく、日頃から予防医療を心がけてセルフケアすることはとても大切です。
日本人女性は我慢しがち。辛いと感じたら周囲に助けを求めて
海野 日本人の女性は、体や健康の悩みがあっても我慢してしまいがち。これを変えるにはどうしたらよいでしょうか。更年期に関する知識を色々なところから得られるのはいいことですが、誤解も多いと感じています。
太田 自分の症状を上手に把握できていない人が多いのだと思います。私は診察のときに患者さんに書いていただく40項目のアンケートと、心理的な問題があるかどうかを判断するテストをやっています。全体のバランスを見ると、どういう傾向なのかが分かります。ただし、私の親世代や私と同世代の方からは、高齢化や出産は病気ではなく普通のことだから仕方がない、という言葉もよく耳にします。
室伏 生理痛などの症状があっても辛いと言いづらい、我慢してしまう文化は、日本人の特徴なのかなと感じています。シーキングスキル、つまり周囲に助けを求めるスキルが必要なのでは。
太田 例えば尿もれで悩む方は泌尿科を受診されると思いますが、日本の泌尿科は世界的に見ても進んでいます。しかし、革命的に進んでいるのと文化的に進んでいる、あるいは一般の方々まで浸透しているかどうかは別問題なので、そういった影響はあるかもしれません。
室伏 自分の情報をもっと簡単に知りたいけど、病院に行くのはめんどくさい、怖くて行けないという人もいるかもしれませんね。すごく大変なときは駆け込むけど、これくらいなら大丈夫と思う気持ちは分かります。婦人科においても、やはり予防医療は大切なのでしょうか。
太田 予防医療に勝るものはないので、どんどん取り入れていくべきです。
室伏 私の父は今年80歳になりますが、今も選手を指導しており、女性選手との間に「体の不調を感じたら病院に行きなさい」と言える関係性ができています。若い選手は自分で我慢できると判断しないで、病院に行くべきだと私の疾患を通して声がけができるようになりました。そうした指導者が増えてほしいと思います。病院に行って何もなかったら、良かったねと帰ってくるのが一番です。
太田 少しでも不調を感じたら早いうちに受診をして、これ以上相談できないと思ったら次に行く、という方法でもいいと思います。婦人科のような手間ひまがかかる医療には、国がカウンセリングの重要性に気づいて、それに見合う報酬をつけるなどすればまた違ってくるかもしれません。

GSMに特効薬はない。医療の進歩とともに一人ひとりの努力が大事
室伏 日本の女性は運動実施率が低いことも課題となっています。女性の健康課題は運動だと私たちも一生懸命に啓発していますが、どうしても運動嫌いな人や忙しくて時間がないなどの実態もあって難しいです。運動はもちろん、自身の健康のために運動や食事、必要に応じて栄養補助食品を利用することも一つの方法だと思います。
太田 日本人女性の生命長寿は世界一です。長生きするにはやはり運動器、骨と筋肉を維持することが大事で、室伏先生が研究されているスポーツ医学は非常に重要です。
室伏 おっしゃる通りです。医学で治療していく中でも運動器がしっかりしていないと、自分の足で歩けなくなってしまったり臓器に影響が出ます。病院で治療を受けるよりもセルフケアの時間のほうがはるかに長いはずなので、何ができるのかを探す楽しさを見つけてほしいですね。楽しく体を動かしているうちに、結果的にアンウェルがウェルになっていくのが理想です。
太田 GSMについては、機能が低下していく順番が分かっていれば早いうちに対策ができます。第一部でお話ししたように、日本では海外で使用されているような薬剤がないので、プロバイオティクスの乳酸菌がひとつの役割を果たす可能性があるのではないかと。それ以外の方法も将来はできてくるでしょうが、今の段階でもう少し勉強をしなければならないこともあると思っています。女性のみなさんは、痛みやかゆみが出たり快適ではない状態ならば病院を受診してください。医者もスポーツ選手も生命は平等で、特効薬やうまい秘訣はありません。日々の努力が大事です。
Report
2月4日(火) 帝人株式会社 東京本社
第一部
登壇者
帝人グループ 執行役員 樋口典子
川崎医科大学 産婦人科 特任教授 太田博明 先生
「ウィメンズヘルスに貢献する “腟内フローラ”を制御する新たな“フェムテック”に注目」
第二部 トークセッション
「その先のケアのために 」
川崎医科大学 産婦人科 特任教授 太田博明 先生
順天堂大学 スポーツ健康科学部 先任准教授 室伏由佳 先生
ファシリテーター: 海野由利子 氏
取材協力/帝人(株) ビオリエ事業部
https://teijin-probio.jp