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Special Interview 菅野美穂

「息子を殺したのは、私ですかー?」 
どこの家庭でも起こり得る光と闇を描いたミステリー作品、
椰月美智子の小説『明日の食卓』が映画化される。
同じ石橋ユウという名を持つ息子3人の母親たちを軸に、
些細なことから平穏な生活が崩れていく家族の様子を描いたこの作品。
元フリーライターで2人の息子を育てる留美子役を演じ
「母親の持つ愛情と狂気を改めて見つめ直すような気持ちになった」と語る
菅野美穂さんにお話を伺った。


抜け殻になるまで撮影した作品。
見る側もパワーが必要だと思いますが、
きっと共有してもらえる気持ちがあると思います


 出演のオファーが来たときの心境を伺うと、ご自身も育児中ということもあり運命を感じる役との出会いだったと話し始めてくれた菅野美穂さん。菅野さんが演じるのは石橋留美子。作品に出てくる『石橋ユウ』という子を持つ3人の母親のうちのひとりで、2人の男の子を育てながらフリーライターとして仕事復帰を目指す母親だ。
「3人の母親役の中で1番理想なのは、高畑さん演じる石橋家で、演技として興味があるのが尾野さん演じる石橋家と思っていたんです。そして1番自分に近くてイヤだなぁと思っていたのが、留美子役でした(笑)。でも実際に完成した作品を拝見したら、どの石橋家も壮絶で…。おふたりとは一度も会わずに撮影が終わってしまったので、これからお会いする機会ができたら改めてお疲れ様でしたとお伝えしたいです」
 その言葉通り、作品に描かれるのは、リアルで壮絶な母と子の物語。でも、これはこの3家族だけではなく、きっと共感してもらえる部分が多いと思うと菅野さんは続ける。
「自分も育児を経験してみて、こうありたい、こうあらねばと思う母親像と実際の自分とのギャップに辛くなるときがあります。それに育児って仕事と違って達成感がないというか、クリアしても次から次へと息つく暇もなくやらなければいけないことが押し寄せてくるんです。クリアしても褒められるわけでもなく、自分の時間だけがどんどん減っていって…。アクセルを踏もうとすると必ず何かブレーキを踏まなければいけないことが起きて、いつも薄い氷の上に立っているような危うい心情は、多かれ少なかれわかってくださる女性がいると思います」
 実際、菅野さんご自身も母親になってから見える世界も変わったそうだ。
「子供を持つ前はベビーカーで公園にいらっしゃるお母様たちを見て、ほのぼのするなぁ、いいなぁって思っていたんです。子供のお迎えを待つ間、昼からワインを飲んでいるお母様を見ると、優雅だなぁって思っていました。でも、今は全然! 子供を持つ身になったら、昼から飲みたくなる気持ちもわかるようになりました。夜は夜でやることがいっぱいですし、子供と離れたその一瞬が自分に与えられた唯一の時間なんだと思うようになったので、もう心の中で『頑張ってください!』って叫びにも似たエールを送っています。作品中にも“子供が産まれてからこれまで、よかったことと辛かったことを並べたら、辛かったことの方が多いんじゃないか”という留美子のセリフがあるのですが、そう思ってしまうのも仕方ないなって」
 留美子を演じる上で自分とは切り離せなかったという言葉と、劇中の鬼気迫る演技を思い出して次の言葉を探していると「でもね、知ってます?」と菅野さん。
「カタツムリって貝なんですよ、ずっとナメクジと同じような生き物かと思っていたら巻貝なんです。それに紫陽花とセットのイメージだけど、実は紫陽花には毒があるからカタツムリが紫陽花の葉っぱに乗ることはないんですって。潮干狩りのピークはいつだと思います? 夏だと思ってたら5月なんですよ! そんな今まで知らずに来た小さな発見を子供たちが教えてくれるんですね。旅行したり、遠くには行けないけれど道端に咲いてるたんぽぽやツクシを見て四季の移り変わりを感じたり、身近な楽しみを感じられるようになったのは子供のおかげだなと心から思えます」
 また、新しいことに挑戦しようと思わせてくれるのも子供の存在だとか。
「子供ができなかったことができるようになった初めての瞬間を見せてもらうと、私も頑張ろうって思えます。でも、やっぱり毎日はいっぱいいっぱい(笑)。きっと子育てを頑張ってよかったと心から思えるのは子供が成長して、振り返る余裕ができてからなのかもしれないですね。だからもしまだ独身で時間があるな ら存分に自分の興味あることに邁進してほしいです」
 菅野さんの30代のお話を伺うと。
 「お仕事をさせていただきながら区切りがつくと旅に出ていました。外国に行くと日本で自分が大事だと思っていたことはそうでもないと気付いたり、自分の凝り固まっていた考えを手放して新しい価値観に出会えたり。20代のときよりも経験が増えた分、周りが見えてきた年でしたし、演技だけを頑張っていれば良いわけではないんだなぁと、ぼんやり思っていた年でもありましたね。任されているということを自覚して、しっかり責任を負って行こうと思い始めたのもこの頃だと思います。30代は仕事もプライベートも両方充実していけるバランスのいい時期だと思うので、やりたいことはやり切ったと思えるまでとことん追求してほしいです」


Photo / Ryuta Seki
Styling / Chikako Aoki
Hair&Make / Yuki Funo
Text / Satoko Nemoto

Profile
1977年生まれ。1993年テレビドラマ「ツインズ教師」で女優デビュー。その後、NHKテレビ小説をはじめ、数々のテレビドラマに出演。最近では「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」で浜辺美波さんの母親役を演じ話題に。映画では1995年に大森一樹監督「大失恋。」で初主演以降、2002年北野武監督「Dolls(ドールズ)、蜷川実花監督「さくらん」などに出演。2014年にはディズニー映画「ベイマックス」で声優も務めるなど多方面で活躍中。


Vegas 「明日の食卓」
 原作/椰月美智子 監督/瀬々敬久 脚本/小川智子
 出演/菅野美穂、高畑充希、尾野真千子 他
 公開/5月28日(金) 全国ロードショー
 WOWOWオンデマンド、auスマートパスプレミアム、
 TELASAにて、6月11日(金)より配信開始

(C)2021「明日の食卓」製作委員会