感情の積み重ねこそ、”生きる”こと。木戸大聖出演「沖晴くんの涙を殺して」

人が誰かと関わることで生まれる様々な感情。
その積み重ねが“生きる”ことだと教えてくれた

─── 小説家・額賀澪氏の長編小説『沖晴くんの涙を殺して』が実写映画化。本作は津波で家族を失った高校生と、余命宣告を受けた音楽教師が織りなす人生讃歌。木戸さんは死神に『悲しみ』『怒り』『嫌悪』『怖れ』を差し出す代わりに生き延びることを許された、沖晴役を演じる。

『喜び』という感情しか持ち合わせていない役を演じるのは、僕にとってとても挑戦的でした。最初は、『喜び』というポジティブな感情だけがあれば、生きることはすごく楽なのではないか?とも思ったんです。

でも全然そんなことはなくて。沖晴を演じることで、ネガティブな感情があるからこそ、嬉しいときに心から喜べたり、悲しい気持ちに寄り添えるということを痛感しましたし、むしろネガティブな感情を経験し、それを乗り越えたときこそ人は成長できるんだと思いました。

─── 木戸さんがとくに難しさを感じたのが、笑顔で悲しい過去を語る場面だったそう。

広瀬アリスさん演じる、京香先生に出会ったとき。沖晴は「なぜあなたはニコニコ笑っているの?」と聞かれるシーンがあります。津波で家族を失うという悲しい過去の話なのに、沖晴には喜びしかない。

どんなアプローチで気持ちを作ればいいのか悩みました。辛い話をするとき、笑いながら話す人もいると思うんです。でもそれは、話す勇気の裏返しだったり、「こんな話をして、相手に気を遣わせないだろうか」という戸惑いや配慮もあるからだと思うんです。

そのいくつもの感情が混ざって、作り笑顔のような表情になってしまうことはあると思うけれど、感情そのものがなくて喜びで話すこととは全然違う。その違いを演じるのはとても難しかったです。

─── 余命一年を宣告された京香との出会いをきっかけに、沖晴は感情を取り戻していく。京香を演じた広瀬アリスさんの印象を伺うと。

以前から映像で見ていた印象、そのままの人でした(笑)。明るくて、面白くて、ケラケラ笑ってて。

隣にいるのがとても居心地がよくて、劇中のセリフにもあるのですが、まさに「お母さんみたい」な人。沖晴を包み込む優しさや、忘れていた母の温かさを京香を通して届けてくれたので、沖晴が感情を取り戻す流れも自然に演じられたと思っています。

─── 30歳を目前にしての高校生役について伺うと、「広瀬さんと二人のシーンは思ったより違和感なくできたんですけど…」と、含み笑いをみせた。

合唱部のシーンは現地の高校生エキストラの皆さんと一緒に撮影をしたのですが、横に並ぶと肌感というか、線の細さというか…。

広瀬さんにも「私といるときは高校生に見えるのに、あの子たちとならぶとこっち側だね」って笑われて。正直、僕もリアル高校生たちとは並びたくなかったです(笑)

─── ロケ地となった広島の江田島も本作に欠かせない存在だ。自然豊かな美しいロケーションも、この作品の見どころのひとつになっている。

江田島の海が美しいのはもちろんなんですが、そのときの天候や空の色によって海の表情が変わるんです。夕焼けに染まる海や、雲にどんよりと覆われた海。それが沖晴や京香の感情とリンクしているように見えるんです。

撮影のときは気づかなかったのですが、本編を観て惹き込まれました。そんな自然の表情にも注目してもらえたら嬉しいです。

─── オフの時間は広島時間を楽しんだそう。

呉市にホテルをとっていたので、次の日が早くない日はひとりで飲みに行ったりしていました。呉には屋台が並ぶ場所があるのですが、本当に現地の人が優しいんです。ふらっと入った屋台で現地の人とおしゃべりをしながら、はしごしたりして。

東京ではなかなかそんな機会を持てないので、とても有意義でリラックスできる時間でした。

───「もし死神と取引をするなら、どの感情を差し出して、何を手に入れたいですか?」と、ちょっと意地悪な質問を投げかけてみた。

もらいたいのは『絶対に病気をしない体』ですね。めちゃくちゃ健康体で歳を重ねて、眠るように幸せに寿命をまっとうしたい。その対価として差し出すなら… そうですね、『怒り』かな。それじゃちょっといいとこ取りすぎですかね?

でも『怒り』も大事な感情のひとつですね。怒りをバネにして成長したり、相手のためを思って湧き上がる怒りもありますし。やっぱり感情はどれがひとつ欠けてもダメですね。となると、やはり取引はできません。

─── 最後に20代のうちにやっておきたいこと、目指す30代について伺うと。

行ったことのない国にひとつでも多く訪れたいです。この前イタリアに行ったのですが、すごく良かったので次はフランスやスペインとか、ヨーロッパを回ってみたいです。

お仕事面では、20代はどっぷりとお芝居に浸れた10年間でしたので、そこで得た経験を30代ではより厚みのあるものにしていきたいと思っています。これは役者に限ったことではなくて、人間としても。

新しい経験への探究心はこれまでと変わらずに持ち続けたいですし、現場では作品やキャスト、スタッフの方々を背負っていけるようなポジションになれるよう、もっともっと努力したいと思います。

30代での高校生役ですか? 制服姿…、リクエストいただけたら、がんばります(笑)

沖晴くんの涙を殺して

原作/額賀澪『沖晴くんの涙を殺して』(双葉文庫)
監督/矢崎仁司
脚本/朝西真砂
出演/広瀬アリス、木戸大聖、満島真之介、北乃きい、戸田菜穂、根岸季衣 他
公開/10月2日(金)全国ロードショー

Ⓒ2026 額賀澪/双葉社「沖晴くんの涙を殺して」製作委員会

木戸大聖

1996年12月10日生まれ、福岡県出身。2017年に俳優デビュー。Netflixシリーズ『First Love 初恋』で注目を集め、その後はドラマ『僕たちの校内放送』『ゆりあ先生の赤い糸』『9ボーダー』『海のはじまり』『バニラな毎日』などに出演。映画では『先生!口裂け女です!』で初主演を務め、『きみの色』では声優にも挑戦。近年は『ゆきてかへらぬ』『WIND BREAKER』など話題作への出演が続き、現在はドラマ『一次元の挿し木』に出演中。繊細な感情表現と確かな存在感で、映像作品を中心に活躍の場を広げている。

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