観ていただくことで、夫婦が報われる。映画『雪の花–ともに在りて–』【松坂桃李 × 芳根京子】
江戸時代末期、疫病との戦いに命をかけた町医者と彼を支えた妻の姿を描いた愛と感動の実話を映画化した「雪の花–ともに在りて–」が公開される。
福井藩の町医者・笠原良策を演じたのは松坂桃李さん。そしてその妻、千穂役を芳根京子さんが務める。
「コロナを経験した私たちにきっと刺さるものがあるはず」と話してくれたおふたりのスペシャルインタビューをお届けします。
素晴らしい音楽や映像とともに、作品への没入感も楽しんで。
─── 主演のオファーを受けた時の心境を伺うと、「小泉監督から声を掛けていただけたことが、まず光栄だった」と答えてくれた松坂さん。
小泉監督の作品に参加できる喜びが一番で、役柄はその次という感じでした。小泉監督は芝居を生き物だという風に捉えてらっしゃるんです。そして何よりフィルムだからこその撮り直しの効かない緊張感。
芝居の鮮度が一層増すような興奮と高揚が混在する素晴らしい現場こそ小泉組の素晴らしさだと思います。
─── 今回、松坂さんが演じたのは疫病から人々を救うために命をかけて奮闘した笠原良策。演じるにあたり監督から何かリクエストはあったのだろうか?
奇をてらわずに、良策の“人々を救いたい”という純粋で強い気持ちを素直に演じてくればいいとお言葉をいただいて。
最初はとても緊張していたのですが、その言葉で肩の力がちょっと抜けたというか、自分自身も素直に役に向き合うことができました。
─── 妻役の芳根さんとの共演について伺うと。
また時代劇、また和装(笑)。しかも、今回は夫婦役でしたので、きっと次回共演させていただくときは和装で晩年夫婦役かなと思っています(笑)。
千穂と芳根さんは、芯の強さというか精神力がリンクしていると思います。表に立った時は平然とそれをやってのけたように振舞うのに、実は裏でものすごく努力をしているんです。
今回でいえば太鼓のシーンもそう。あえて練習風景は見ずに本番を迎えたんですが、間近で見たその姿は想像以上に素晴らしくて、ただただ感動しました。
─── 公開日を前に吹雪に襲われ自ら命の危機を迎える緊迫の場面写真なども解禁され、松坂さんにとっても過酷な現場だったことが想像できる。
車もなければもちろん電車もないという状況で山を越えるというのはただでさえ大変なこと。それを猛吹雪という普通なら行かないところを命がけで強行突破するわけです。
“人の命を預かっているんだ、どうしても行かねばならないんだ”という強い想いがあったからこそ乗り越えることができたと思うので、この場面はその熱い想いにふさわしいシーンになっていると思います。
─── 千穂と薬草を摘むシーンもお気に入りと松坂さん。
実は千穂とのシーンはそんなに多くないのですが、二人で会話をしながら薬草を摘んだり、調剤したりするシーンは気に入っています。
夫婦以外のシーンでいえば、三木理紗子さん演じる“はつ”の歌声にも注目してほしいです。自然の音を聞いているような、ものすごくマイナスイオンを浴びているような、とっても癒されるシーンなんです。
このお話は史実に基づいて作られているのですが、そんな風に音や映像で観客を飽きさせず、楽しませてくれるシーンが盛り込まれているのも小泉監督の素晴らしいところ。
その上でこんな事実があったということを教えてくれるので、時代劇はハードルが高いと思っている方でも必ず楽しんでもらえると思います。
─── 疫病に立ち向かい、絶対諦めなかった良策。それにちなみ“これを成し遂げるまで死ねない!”ということを教えてもらうと。
えー、宇宙に行くくらいかな(笑)。死ぬまでには行きたいというか、あと50年くらいしたら宇宙旅行が日常になっているかもしれないですし。世界中どこへでも2時間あれば行けちゃうみたいな時代になってたり(笑)。
直近でやってみたいことですと、“金継ぎ”ですね。お気に入りのお茶碗を割ってしまったので、金継ぎで新たなデザインに生まれ変わらせたいなと。
─── これまでたくさんの役を演じてきた松坂さん。最後に今後演じてみたい役を聞いてみた。
具体的にどんな役というよりも、準備期間が1年とか長い作品に携わったらどういうところまで行き着くんだろうと考えたりします。
今回も撮影に入る前に台本を読み込んだり、歴史の資料を何度も何度も読み込んで良策という役を作り上げたのですが、それでも3ヶ月くらい。
もちろん時間をかければ良いものが生まれるというわけではないと思いますが、時間をかけたことによって何が生まれるのかを自分の中で確かめてみたいという気持ちがあります。
“笠原良策という人がいたんです!”と、声を大にしてお伝えしたい。
─── 松坂桃李さんとは映画『居眠り磐音』以来5年ぶり2度目の共演となった、芳根京子さん。久しぶりの共演について伺うと、「松坂さんとは現代を生きられないんだなと思いました」と笑った。
前回に続いて今回も時代劇で夫婦役です。
でも前回は結婚する約束をしつつ、お別れをしてしまったので、今回は無事妻として支えることができて幸せでした。
─── 演じた千穂について伺うと。
最初は千穂の強さをどう表現するかをすごく悩みました。
でも小泉監督から“強くないと優しくなれない、優しくなれないと強くなれない。そのバランスを探してください”というヒントをいただいて導いていただきました。
千穂にとって良策さんは希望そのものだったと思うんです。この人なら世界を救えるかもしれないって。
だから千穂も彼を支えることに自信が持てたし、それが使命とさえ思えるくらい人生を賭けられたのかなと。
─── ご自身と似ている部分を教えてもらうと。
そうですね…、決断したら信じて進む。こうと決めた気持ちは曲げたくないというところは近いかもしれないです。
でもそんなにしっかりした面ばかりではないですから(笑)。
ありがたいことに責任感があったり、強い意志を持った女性の役をいただくことが多いのですが、いつかはいい加減で何も考えていないような、ちゃらんぽらんな役もやってみたいなと思っています。
─── 松坂さんと良策さんは優しさの種類が同じ」と芳根さん。
良策さんと松坂さんはとっても似てると思います。
芯が強くて困っている人を放っておけない感じというのかな。千穂を演じながら良策さんを支えたいと思いましたし、松坂さんを支えたいと思いました。
─── 出演オファーが来たときは小泉作品にまた出られることの喜びでいっぱいだったと芳根さん。
小泉作品に参加させていただくのはこれが2度目なのですが、認めていただけたようでとても嬉しかったです。それと同時にとてつもないプレッシャーと緊張感で震えました(笑)。
というのは台本に太鼓のシーンがあると書かれていたのですが、あんなに壮大なシーンだとは思っていなくて…。
衣装合わせのときに初めて監督から“こんな絵が撮りたい”と説明されて、開いた口が塞がらなくなっちゃいました。バチすら握ったことない初心者でしたから。
でも、先生がマンツーマンで教えてくださって、とても褒めてくれるので楽しく練習することができました。始めはどうなることやらと思ったのですが、撮影の日は気持ちよく叩かせていただきました。
─── 本作で描かれるのは多くの命を奪う疫病に立ち向かい、どんなに困難が襲ってこようとも諦めなかった良策と、彼を支える千穂の夫婦の絆。芳根さんは困難にぶつかったとき、どう乗り越えるのだろう?
乗り越えられない試練はないと思ってやっています。自分がしんどいと思っても、きっと神様はこれくらいなら乗り越えられるだろと思って試練を与えているのかなと。
そう信じていれば頑張れますし、どうにかなるって思えるんです。
挫けそうになっている人がいたら…? そうですね、そのときはまずその人が選んだ道を全力で応援すると決めています。
自分からあれこれ聞いたり、アドバイスしたりはしないけれど“いつでも聞くからね。何かあればいつでもどうぞ”というスタンスでそばにいます。
─── 最後に改めて本作に込めた想いを伺うと。
“笠原良策という人がいたんです!”と、声を大にしてお伝えしたいという気持ちでいっぱいなのですが、これは私の気持ちであり千穂の気持ちで。
なんだかとても不思議な感覚なんです。きっと作品を観ていただくことで良策と千穂夫婦も報われるのではないかと思うと、たくさんの方に劇場に足を運んでほしいと願うばかりです。
そして、今回の作品は太鼓もそうですが調剤や殺陣など覚えることがいっぱい。撮影前から時間をかけて必死に役作りをしてきたので、その分丁寧に演じられたと思っています。
ぜひ劇場で奮闘している姿を観ていただけたら嬉しいです。
『雪の花 –ともに在りて–』
監督/小泉堯史
出演/松坂桃李、芳根京子、三浦貴大、宇野祥平、沖原一生、坂東龍汰、三木理紗子、新井美羽、串田和美、矢島健一、渡辺哲、益岡徹、山本學、吉岡秀隆、役所広司
公開/1月24(金) 全国ロードショー
©2025映画「雪の花」製作委員会
松坂桃李
1988年生まれ。2008年、男性ファッション誌『FINEBOYS』の専属モデルとしてデビュー。2012年公開の映画『ツナグ』で、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後も映画『狐狼の血』、2019年映画『新聞記者』、2021年映画『狐狼の血 LEVEL2』、2022年映画『流浪の月』など、数々の賞を受賞。
芳根京子
1997年生まれ。2013年にフジテレビ系ドラマ「ラスト♡シンデレラ」で女優デビュー。2015年キャストオーディションで1000人以上の参加者の中から選ばれ、TBS系ドラマ「表参道高校合唱部!」でドラマ初主演を務める。その後、NHK 連続テレビ小説「べっぴんさん」でヒロイン坂東すみれ役を務め、2018年の映画『累ーかさねー』、『散り椿』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。