
“手応え”がない、デジタル社会の現代人へ。私の輪郭を取り戻すアナログ習慣5選
Poco’ce編集部が月曜8時にお届けする連載、【さあ、今週もわたしのために。】
朝、目が覚めて最初に触れるのはスマートフォン。隙間時間には他人のキラキラした日常や言葉の強いポストをスクロールして、仕事中はPCのキーボードを叩き続け、夜は動画配信サービスを眺めながら眠りにつく。
私たちの毎日は、この数年で多くのことが驚くほど「指先ひとつ」で完結するようになり、効率性や利便性も格段に上がりました。
でもその一方で、ふとした瞬間に言いようのない「疲れ」を感じませんか?
身体を動かして感じる疲れとは違う、脳がオーバーヒートして、自分の輪郭がぼやけていくような感覚。情報は無限に手に入るのに、自分の手で何かを成し遂げたという「確かな手応え」は掴めていないようにも感じます。
もしかすると今の私たちに最も必要なのは、もっと効率を上げることではなく、あえて「非効率」なアナログの世界に触れて、自分の輪郭、つまり身体感覚を取り戻すことかもしれません。
そこで今回は、「私の輪郭を取り戻すアナログ習慣」を5つご紹介します。
なぜ今、私たちに「アナログ」な刺激が必要なのか

現代人は常に情報の洪水にさらされており、デジタルデバイスから発せられるブルーライトや次々と飛び込んでくる通知は、交感神経を常に優位にし、脳や身体を「張り詰めた状態」に維持し続けます。
この状態が続くと脳や体に過度な負担がかかるだけでなく、感情のコントロールやクリエイティブな思考が難しくなってしまうのです。
そこでオススメなのが、アナログな刺激を取り入れること。脳を休めるために「何もしない」のは意外と難しく、むしろ「別の感覚(触覚や嗅覚)」を使うことで、脳の活動部位を切り替えるほうがスムーズにリフレッシュできます。
また、デジタルには実体がありません。一方で、たとえば料理を作る、土を触る、紙に文字を書くといったアナログな行為には、香りや温度、重さなどの身体感覚が伴います。
現代こそ、自分の手で直接世界に触れ、変化させているという実感が必要なのではないでしょうか?
私の輪郭を取り戻すアナログ習慣5選
この章では、自分の輪郭(身体感覚)を取り戻せるアナログ習慣をご紹介しますが、大切なのは「完璧にこなさなければならないタスク」にしないことです。
私たちは「どうせやるならちゃんとやらなきゃ」「インスタ映えするように整えなきゃ」と、効率や正解、承認をつい求めがち。しかし、アナログ習慣を取り入れる最大の目的は、まさにそこからの脱却にあります。
上手くできなくても、他人に見せられなくても、失敗してもいいのです。手触りや温度・湿度、香り、重さ、そしてその瞬間に自分の心がどう動くか、何に心地よいと感じるか、だけに集中してみてください。
①食べる:蒸籠蒸しで五感を満たす

SNSの特に美容界隈で定期的に話題となる、「蒸籠(せいろ)蒸し」。準備が大変そうに思えますが、実は忙しい女性にこそオススメしたい調理方法なんです。
蒸籠の良さは、まずその「香り」にあります。蓋を開けた瞬間に広がる杉や竹、ヒノキの清々しい香りは、私たちの身体をリラックスさせてくれます。
そして「切って並べて蒸し終わるのを待つだけ」なので、火加減を気にしたり、焦げ付かないように見守ったりする必要はないのです。
タイマーの音で機械的に判断するのではなく、漂ってくる香りの変化や、蓋の隙間から漏れる湯気の勢いで「そろそろかな」と蓋を開けてみる。そんなふうに五感を使いながら待つ時間は、デジタルに慣れきった現代人にはむしろ贅沢に感じるかもしれません。
蒸し上がった食材は、野菜は驚くほど甘く、お肉はしっとりとジューシー。お塩をつけるだけでおいしくいただけます。
②作る:餃子作りで雑念を追い出す

料理の中でも「餃子を包む」という作業は、高いマインドフルネス効果を持っています。それは、単純で規則正しい「反復作業」だからです。人は、一定のリズムで同じ動きを繰り返すと、脳内に幸せホルモンと呼ばれるセロトニンが分泌されやすくなります。
餃子の皮を手に取り、具をのせ、指先に水をつけ、ひだを寄せて閉じる。この一連の動きに没頭していると、たとえば人間関係や仕事の悩みといった「雑念」が自分から離れていくのを感じるはずです。
そして、目の前に整然と並ぶ餃子を通して得る「達成感」も、アナログならではの醍醐味。デジタルな仕事は「終わりのない旅」のように感じることも多いですが、餃子作りには明確な「終わり」と「成果物」があります。
お気に入りの音楽をかけたり、ハイボールを飲んだりしながら、10個、20個と包んでいく。家族や友人と包めばいつも以上にコミュニケーションを取れて、一人で包めば深い瞑想になる。そんな無心になれる餃子作りをぜひ楽しんでみてください。
③育てる:土や植物に触れて命を慈しむ

特に都会で暮らしている方は、土や植物に触れる機会がほとんどないかもしれません。そんな方こそ、ベランダやキッチンカウンターに小さな鉢を一つ置いてみてはいかがでしょうか。
朝、起きたらまずその子の様子を伺ってみる。土の乾き具合を確かめ、必要あれば水を与える。新芽が出ていれば喜び、元気がなければ環境を含めて“与えているもの”を見直してみる。このような言葉を持たない植物との時間は、疲れている私たちの脳を休めてくれます。
また、植物は私たちがどれだけ焦っても、自分のペースでしか成長しません。その「ままならない」リズムを受け入れることは、自分の「ままならなさ」を許容することにも繋がります。
命を育てるというアナログな行為が、自分の中に眠る「慈しむ心」や「育む喜び」を呼び起こし、「自分自身に対しても、もっと優しくなっていい」と教えてくれるでしょう。
④修繕する:ダーニングで欠けた部分を愛でる

「ダーニング」とは、ヨーロッパに伝わる伝統的な衣類の修繕手法で、穴が開いたり生地が擦り切れたりした靴下やニットを、あえてカラフルな糸で可愛らしく補修する技術です。
効率を重視する現代では、穴が開いたら捨てるのが「正解」かもしれません。しかし、気に入っていたものや思い出があるものを自分の手で繕う時間は、物を大切にするだけでなく、自分自身の「欠けた部分」を癒やすプロセスにも似ています。
ダーニングマッシュルームと好きな糸、針、ハサミなどを用意したら、穴の下にダーニングマッシュルーム(お玉や電球などでも代用可能)を添えて、縦糸と横糸を交互に編むように通していきましょう。
ダーニングの良いところは、選ぶ糸や通し方に「決まり」がないところ。隠すのではなくあえて目立たせてみると、「傷ついた経験や失敗も、私を構成する大切な一部である」と思えるような気がします。
⑤灯す:マッチを擦り、揺れる火を見つめる

火を扱う機会が減った現代において、マッチを箱の側面でシュッと擦り、立ち上る火薬の匂いを嗅ぎながらオレンジ色の光を見つめ、火に手をかざして温かさを感じる時間は、本当に豊かですよね。
また、揺れる火を見つめるうちに、思考が自然と静まっていくのを感じたことのある方は多いでしょう。実際に、ゆらゆらと不規則に揺れる火の光には、電気の光とはまったく異なる「1/fゆらぎ」と呼ばれるリラックス効果があります。
1日の終わりに、揺れる火をただ見つめて呼吸をする。スマホの画面を指先で忙しなくスクロールし、膨大な情報を得るのとは対極にある、何も生産しない時間。身体感覚だけに集中できるこの時間は、私たちに「静寂」の価値を思い出させてくれるはずです。
不完全さを愛し、確かな「私」を抱きしめる時間を作ろう

指先ひとつですべてが片付く便利な毎日の中で、私たちはいつの間にか「生きている手応え」をどこかに置き忘れてきたのかもしれません。画面越しに誰かの正解を追いかける時間は、知らず知らずのうちに自分の輪郭をぼやかしてしまいます。
今回ご紹介したアナログ習慣は、どれも「効率」や「正解」とは無縁のものばかり。
今夜はほんの少しだけスマホを遠ざけて、五感が喜ぶ非効率な時間を作ってみませんか?数値化できない、実体のある感覚が、あなたの輪郭を鮮明に浮き立たせてくれるはずです。
編集部・アイ
人間への好奇心と実験欲にあふれるライター。人生の“ままならなさ”は生きる醍醐味。今まさに読んでくださっているあなたと「ままならないね〜」と分かち合い、「まあでも頑張るか!」と肩を組めるような言葉を紡ぎたい、と常々思っている。

