“膣内フローラ”から女性の健康を考える【テイジン】

カラダの悩みやトラブルを隠すことなく、みんなで解決していくことで女性がより健康的で
働きやすい社会を目指す動きが高まっている今、女性に寄り添い、悩みを解決するソリューションを提供する新たな取り組みを行う企業が増えてきました。

様々な素材を世界に提供している素材メーカー「テイジン」もそのひとつ。多くのメディアを招待した
プレス向けセミナーでは、興味深い話が盛りだくさん。その内容をレポートします。

フェムトラブルの鍵を握るのは“膣”。女性特有の臓器の重要性を知ってほしい

ここ数年で「フェムテック」という言葉を耳にする機会が増えた人も多いのではないでしょうか?

フェムテック(Femtech)とは、「Female(女性)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語のこと。

テクノロジーの力で女性の健康問題やライフスタイルの課題を解決するための商品やサービスを指す言葉です。

これまで女性特有の問題はどこかタブー視されてきた日本ですが、ここにきて徐々に広がりを見せてきました。

さらにジェンダー平等や女性の社会進出の議論も活発になり、それに伴って企業の関心も上々。市場規模は拡大し続けています。

今回セミナーを開催した「テイジン」もそのひとつ。セミナーは、テイジンによる「女性の健康への取り組み」から始まりました。

テイジンは、2020年から乳酸菌、ビフィズス菌など、カラダに有用な菌であるプロバイオティクス素材事業に参入。女性の健康課題にフォーカスした新たなフェムケア市場の開拓を目指し、製品開発を進めています。

そもそも、フェムテックの分野は大きく「月経」「妊娠・不妊」「更年期」の3つの分野に分かれていて、そのすべてに関係しているものが、女性特有の臓器「膣」です。

でも膣がなぜ重要なのか? それをしっかりと理解している人は多くはないはず。

そもそもデリケートな部分なので悩みがあっても相談できない人が大半なのではないでしょうか?

ではなぜ「膣」なのか。その疑問に答えるようにセミナーは続きます。

「プレコンセプションケアー女性生殖器(卵巣・子宮・膣)機能に基づく考察ー」というタイトルでお話を始めてくれたのは、東京大学医学部、産婦人科学教室准教授の原田美由紀先生。

プレコンセプションケアとは、日本語に訳すと「妊娠前の健康管理」という意味。現在では妊娠前の女性だけではなく、カップルを対象としていて、将来の妊娠・出産のための健康管理を行うことを定義としているそう。

最近では推進している企業も増え、原田先生へのセミナーや講演依頼も年々増えているとのこと。

月経が来ていても30代後半になると妊娠しづらくなる…

そんな原田先生が本題に入る前に私たちに投げかけたのが「月経が来ていれば妊娠できるのでしょうか?」という問い。これに「大丈夫、いつでも妊娠できます!」なんて答えられる人はいませんよね。

生活習慣や既往病などで妊娠しやすさは変わってきますが、遅かれ早かれ誰にでも平等にやってくるのが加齢。みんな頭や心の片隅に引っかかっている「妊娠までのタイムリミット」です。

それに大きく関係しているのが「卵巣・子宮・膣」の女性生殖器。卵子は出生後に新しく作られることがないので、年齢とともに減る一方なのだとか。

つまり、30代後半になると妊娠しづらくなるのは、卵子の減少が原因のひとつなのです。

さらに年齢と比例して卵子の質も低下するため、妊娠しづらくなったり、流産の可能性も上がってしまうとのこと。

さらに30代、40代になると罹患率が上がるのが、子宮内膜症や多嚢胞性卵巣症候群、子宮筋腫や子宮内膜ポリープといった病気。

普段から月経量が多かったり月経痛がひどいなどの症状がある人はもちろん、なくても普段からかかりつけ医を持って定期検診をすることがとても大切なのだという言葉が響きました。

膣内細菌叢が乱れるとデリケートゾーンの問題や不妊のリスクも

そして卵巣・子宮と並び女性の健康を大きく左右するのが「膣」なのだと、先生は続けます。膣の中には善玉菌と悪玉菌の常在菌が存在し、そのバランス(細菌叢)のことを「膣内フローラ」と呼びます。

女性のカラダには、バランスを正常に保つ自浄作用が備わっていますが、膣内の環境はかなりデリケートで、体調やストレスによってそのバランスが崩れてしまうそうです。

デリケートゾーンのかゆみや臭い、おりものなどのトラブルは、膣内フローラのバランスが乱れて悪玉菌の繁殖が優勢になってしまうことが原因のひとつと聞いて納得。

これらが妊娠の確率や周産期に与える影響は研究の途中だそうですが、早産や着床障害の関連などが疑われているそうなので、おりものに変化があったらすぐに婦人科へ行くことが大切とのこと。

ただし、ここで怖いのが、約半数の方が無症状だということ。つまり、自分では気づかないうちに膣内フローラが乱れている可能性もあるのです。

それをケアするためには、これまでウォシュレットや保湿クリームなどの“外的ケア”が主流だったものを、腟に着床する「プロバイオティクス」などを積極的に取り入れて、カラダの内側からケアするアプローチ法も注目されているそうです。

常に女性生殖器は全身の健康状態を反映することを意識しながら、拗らせる前に婦人科疾患を早く発見し、対処することの大切さを学ぶことができました。

そして、原田先生に続き、壇上に立ったのは美容家であり、メノポーズカウンセラーの吉川千明さん。メノポーズとは更年期や更年期障害のこと。

吉川さんは避けて通れない更年期のお話やフェムケアについて、また、それに伴う菌との上手な付き合い方についてをお話してくださいました。

「更年期」とは? 個人差はありますが、定義としては閉経前後の5年を合わせた約10年間のことを指します。その間に女性のカラダに何が起こるかと言うと…。顔のほてりやめまい、不眠や倦怠感など。俗に言う「更年期障害」です。

その程度のお話は知っている方も多いと思いますが、実はそれらは不快症状の入り口に過ぎず、閉経以降深刻になるのが「GSM」なのです。

「GSM」とは、「Genitourinary Syndrome of Menopause」の頭文字を取ったもので、「閉経関連尿路生殖器症候群」のこと。

2014年に国際女性性機能学会と米国更年期学会において提唱されたそうです。「GSM」を発症する前には段階があり、まず皮膚や粘膜の潤いが低下。これは女性ホルモン(エストロゲン)が減少することで起こる症状で、まず目や口、のどの渇きから自覚する人が多いのだとか。

そして胃腸も粘膜なので機能の低下による食欲不振を起こし、最後にフェムゾーン(腟、外陰部、泌尿器)が乾く「GSM」の発症に繋がるとのこと。

そしてこの「GSM」こそ、放置すると大変だと吉川さん。というのは、GSMは慢性かつ進行性の病気なので放置していて治ることはないそうで、それどころかどんどん泌尿器周りの皮膚や粘膜の潤いが低下していき、炎症を起こしやすくなってしまうのだとか。

それに伴いフェムゾーンの痒みや痛み、臭いなどはどんどん重症化していくそうです。

中年女性による「夜中に何度もトイレで目が覚める」、「性交時に痛みがある」、「軽い尿漏れが続く」などのトラブルは、実は自覚がないだけで、「GSM」だったんです。

日本の閉経の平均は50〜51歳ですが、「GSM」は閉経後3〜4年で顕在化してくるケースが多いそうなので、深刻になる前の40代のうちからケアしておくことが大切なのだとか。

女性ホルモンが“ある”私から“ない”私へと移行する時期が更年期

そこで重要になってくるのが、膣内フローラに注目したフェムケア。これまでは、ホルモン充填治療や腟剤治療、最近ではレーザー治療などもありますが、それらは受けられる人が限られていたり、とても高額とのこと。

そこで、吉川さんが提案するフェムケアをまとめると、まずは「ストレスをためない」こと。

そして、「十分な睡眠時間やバランスの良い食事を摂るなど、規則正しい生活」に、「保湿剤や潤滑剤など、デリケートゾーン専用製品の使用」。

また、自浄作用があるので「腟内は洗わない」ことや、「プレバイオティクス・プロバイオティクスの補給」などを心がけることが大切とのこと。

普段から日常的にセルフケアすることで膣内フローラを正常に保ち、80、90歳になっても自分らしく健やかに過ごしましょうという、先生の笑顔がとても印象的でした。

「フェムテック」が浸透してきた今、昔は老人性膣炎などと呼ばれ、老人のつまらない悩み扱いされていた症状に病名がつき、自分でケアできる方法まで広まりつつある。

これまで“仕方がない”と諦めていた苦痛や悩みを改善するさまざまなものが登場しているのは、女性にとってとても心強いこと。

とはいえ、「フェムテックには明確な定義がなく、法整備も整っていないのが現状」と吉川さん。その商品が安心して使えるものなのか、品質は保証されているのか。

もしそれを見極める自信がなかったら、かかりつけ医の先生に聞くなど、一人ひとりが正しい情報を得るリテラシーも求められるという言葉が胸に刺さります。

膣内フローラの重要性とともに、普段から定期検診をすることや、不調を感じたらすぐに相談できるかかりつけ医を持つことが大切だと改めて感じたこのセミナー。

もう齢だからと諦めるのではなく、何歳になっても自分らしく楽しく生きていくために、もっと自分の健康に目を向けてみてはいかがでしょうか。

吉川千明事務所・株式会社TUTU
代表取締役 吉川千明

1990年代よりオーガニックコスメと植物美容を日本に広げたナチュラルビューティの第一人者。食、女性医療、漢方、植物療法、ファッションから、ナチュラルでヘルシーな女性のライフスタイルを提案。現在、認定メノポーズカウンセラーとして更年期のカウンセリングも行う。著書に『「閉経」のホントがわかる本』など。

東京大学医学部 産婦人科学教室
准教授 原田美由紀

女性のカラダに着目した「プレコンセプションケア」をライフワークとして研究を行う。特に、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の病態ならびに抗がん剤による卵巣毒性に焦点を当て、新規治療・予防戦略の開発を目指す。既存のホルモン療法によらないアプローチのひとつとして腸内細菌叢に着目している。

Recommend