映画『ミッシング』。メンタルが削られる日々でも、幸せに溢れていた【石原さとみ】

石原さとみ主演×吉田恵輔監督の映画『ミッシング』が公開される。

娘の失踪事件をきっかけに崩壊していく日常、すれ違っていく家族の姿や報道するメディア、視聴者…。

現代社会の闇が描かれた衝撃的な本作で、情報の荒波に巻き込まれ翻弄されながらも、その先にある光を求め続ける母親・沙織里を演じた、石原さとみさんにお話を伺った。

─── 「初めて脚本を読んだときの感情は嘘だったなと思うくらい、本当に怖くなった…」そう話し始めてくれた石原さとみさん。出産後、初の映画主演となった今作『ミッシング』だが、出演の話が来たのはお子さんを身籠る前だったそう。

そのときも娘を失う母親の気持ちは、想像はできたんです。でも、子供を産んで改めて脚本を読むと、ページが開けないくらい怖くなりました。

子供が生まれる前に比べて、脚本から受ける怖さが、より濃くなりました。苦しみの色が見えるんです。

沙織里がどれだけ悲しくて辛い思いをしているかが容易に想像できてしまいますし、想像するとパニックになってしまう。

なので、演じるには本当に覚悟がいるなと思いましたし、怖くて怖くて不安でした。

─── その不安に寄り添い、導いてくれたのは吉田恵輔監督だった。

私自身が本当に壊れてしまうのではないかという怖さと、どう演じていいのかまったく自信が持てなくて…。

でも、監督はワンカットごとに寄り添って、ディスカッションをしてくれて、何より私を信じてくれました。

監督のおかげで新しい自分にも出会えましたし、改めて自分がもっと違うものを演じられるという自信もいただきました。

6年前に“どんな役でもいいから一緒にお仕事がしたい”と、直談判したことがあったのですが、振り返ってみて、本当に良かったと思いました。

─── 撮影中は苦しかったけれど、俯瞰でみると、とっても幸せな日々だった」と石原さんは続ける。

吉田監督の作る世界に入りたい、その一部になりたいと思った場所で、自分が現実として撮影をしている。客観的に見た時、なんて幸せなんだろうと思いました。

私を変えてくれるのはこの人だと思った感性は間違っていなかったなと思いましたし、自分が動いたことで繋がったご縁だと思ったら、本当にあのとき動いて良かったと実感しました。

完成した作品を観た時、改めて夢が叶ったんだと、幸せを噛み締めました。

─── 劇中の沙織里は髪が傷んでいてボサボサ、石原さんの印象的な唇も荒れてガサガサ。“くたびれた佇まい”を醸し出すためにあえて添加物の多い食事を摂って肌の状態も悪くしたと聞いて驚いた。

髪はボディーソープで洗って傷めつけました。産後で毛が抜けていた時期だったので、その産毛も活かしてボサボサのまま撮影しました。しみもそばかすもそのまんま。

ジムに行くのもストップして体も緩んでいたのですが、そのさらけ出した感じが、自分のことよりも大切な娘を守る母親そのものというか、実際に子育てに追われている私そのもので。

その雰囲気が沙織里を演じる自分を助けてくれる気がしたんです。

撮影後は髪の毛もばっさり切ったので傷みもなくなりましたし、今は寝る前に保湿するくらいのスキンケアはできるようになりました。まだ、お風呂はカラスの行水ですけど(笑)。

─── 娘が行方不明になったとき、好きなアイドルのライブに足を運んでいた沙織里。「あのとき私が…」と、自分を責めてしまうような出来事はだれにでも大なり小なりはあるはず。そんなとき、どう心と折り合いをつけていけばいいのだろう?

私はまだ取り返しのつかない後悔をしたことはないのですが、タラレバなんてことは、イヤってほどいっぱいあります。

でも、本当にありがたいのですが、私の周りにはポジティブ人間がたくさんいて、どんなに落ち込むようなことがあっても“過去も現在も今どう動くかで変えられるんだ”って言ってくれて。

過去に起こってしまったことも今、それをどう解釈するかで未来が変わる。

だから過去を引きずるのではなく、それを踏まえた上でどう動くかが大事だって。そういう風に言ってくれる人たちが周りにいることはとても心強いですし、私の財産だと思っています。

─── 最後に、心を失った人たちがそれでも光を見つけようとする姿を描いた作品にちなみ、最近石原さんが感じる“些細な光や幸せ”を伺うと、「休日の朝食の時間」とのお答えが。

お休みの日は、家族との朝ごはんを外食にするのですが、すごくテンションが上がります。

パンケーキを食べたり、朝定食を食べたり。ファミレスからホテルまで、色々行きます。

朝の外食はとっても気持ちが良いですし、とても美味しいし。“あー、今日はお休みだー!”って嬉しくなるんです。

『ミッシング』

監督・脚本/吉田恵輔
出演/石原さとみ、青木崇高、森優作、有田麗未、小野花梨、小松和重、細川岳、カトウシンスケ、山本直寛、柳憂怜、美保純/中村倫也

5月17日(金) 全国ロードショー

配給/ワーナー・ブラザース映画

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石原さとみ

1986年生まれ。『わたしのグランパ』(03)でデビューし、第27回日本アカデミー賞を含む6つの映画祭・映画賞にて新人賞を受賞。NHK連続テレビ小説「てるてる家族」(03)のヒロインに抜擢され、第41回ゴールデン・アロー賞放送新人賞、最優秀新人賞を受賞。『北の零年』(06)、『シン・ゴジラ』(16)、『そして、バトンは渡された』(21)では、日本アカデミー賞優秀助演女優賞に輝いている。現在、NHK「あしたが変わるトリセツショー」MC他、主演を務める連続ドラマ「Destiny」(テレビ朝日系火曜9時)が放送中。

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