成し遂げたい目標に向かう時、人は常に迷い、孤独になる。【ハリウッド女優に学ぶ“オンナの生き方”】

本作で、第96回アカデミー賞助演女優賞を受賞した、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ。

感動のスピーチで語られたのは、恩師への感謝の言葉。

人は成し遂げたい目標に向かう時、迷い孤独となるものですが、その姿を見守りながら応援してくれる人がいるということを教えてくれた。

映画「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」
ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ

物語の舞台は1970年代マサチューセッツ州にある全寮制の寄宿学校。

生徒や同僚から嫌われている教師ハナム(ポール・ジアマッティ)は、クリスマス休暇でほとんどの生徒が家に帰る中、学校にとどまる学生たちの監督役を務めることになりました。

寄宿舎に居残ることになった学生のアンガス(ドミニク・セッサ)と、学内食堂の料理長として働くメアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)、ハナムの3人は、衝突しながらも2週間のクリスマス休暇を疑似家族のように過ごすことになるのですが…。

本作は第96回アカデミー賞で作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞しました。

オープニングで寄宿学校の周りを雪かきしている男性が登場しますが、人生は雪かきのようだと評した作家は村上春樹でした。

村上氏の小説には何度か雪かきに対する考察が出てきます。雪かきは決して人生に彩りを与える作業ではないかもしれませんが、それでも人生において目の前の課題をクリアするという大切な作業であり、誰かがやらなければいけません。

村上春樹は“文化的雪かき”とも表現していますが、この作品に登場する主人公ハナムは周りの人々から融通が効かない堅物だと思われながらも、自分の信念を貫きながら“雪かき”をしているのです。

教師のハナムと料理長のメアリーそして生徒のアンガスはそれぞれに問題を抱えていますが、共通するのは孤独であること。

周りから忌み嫌われているハナムと、自分の息子をベトナム戦争で失ったメアリーと、家族の愛に飢えているアンガスは、反発しながらも次第に心を通わせるようになります。

普段は感情をあまり表に出さないメアリーがキッチンで過去を振り返り咽び泣くシーンを観れば、メアリー役のダヴァイン・ジョイ・ランドルフのオスカー受賞に納得できるはず。

孤独と愛情と自己犠牲が凝縮された本作を是非劇場で体験してみてください。

本作でメアリーを演じた、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフは、アメリカ・ペンシルベニア州で生まれ育ち、テンプル大学に入学してボイス・パフォーマンスを専攻していました。

しかし、芝居に強い興味を持つようになり、大学卒業後に演劇学校に進学。その後出演した舞台「ゴースト」(2012年)の霊媒師役で評価され、トニー賞ミュージカル助演女優賞にノミネート。

その後は、映画界にも進出して『余命90分の男』(2014年)『クレイジー・パーティー』(2016年)に出演。

そして、『ルディ・レイ・ムーア』(2019年)のレディ役で、アフリカン・アメリカン映画批評家協会賞など数多くの映画賞を受賞。ハリウッドでブレイクスルーを果たしたのです。

彼女はその後も数々の映画やテレビドラマへの出演を経て『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』のメアリー役で遂にアカデミー賞助演女優賞を受賞しました。

オスカーを受賞したダヴァインは、ドルビーシアターのステージでこうスピーチしました。

「長い間、私は(人と)違う人間になりたいと思っていましたが、いまは自分らしくいればいいんだということに気がつきました。あなたが私を見てくれたことに感謝します。ロン・ヴァン・リュー(※彼女が通っていた演劇学校の教師)ありがとう。

私がクラスで唯一の黒人少女だった時、あなたは私を見て今のままで十分だと言ってくれました。

私があなたに“自分が見えない”と言ったらあなたは“大丈夫。私たちは自分たちの道を切り開くんだ。自分で足跡を残すんだ”と言ってくれました…」  

人は成し遂げたい目標に向かう時に迷い孤独となります。でも貴方のことを見守り応援してくれている方がきっといるはず。

ダヴァイン・ジョイ・ランドルフのこの言葉が僕の胸に刺さりました。

ホールドオーバーズ
置いてけぼりのホリディ

監督/アレクサンダー・ペイン
出演/ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ 他

公開/6月21日(金) TOHOシネマズシャンテ 他

Seacia Pavao / © 2024 FOCUS FEATURES LLC.

Written by コトブキツカサ(映画パーソナリティー)

Profile/1973年生まれ。小学生の頃からひとりで映画館に通うほどの映画好き。現在、年間500本の映画を鑑賞し、すでに累計10,000作品を突破。1995年より芸人時代を経て、2010年より「映画パーソナリティー」としての活動を開始。近年は、俳優としての顔ももち、ドラマや映画にも出演。活動の場を広げている。

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