愛があれば一人でも大丈夫。木村文乃が演じる、『LOVE LIFE』
深田晃司監督の最新作『LOVE LIFE』が公開される。本作は1991年に発表された矢野顕子の楽曲『LOVE LIFE』をモチーフに構想期間18年の時を経て完成された人間ドラマ。
愛する夫と愛する息子、幸せな人生を手にしたはずの妙子にある日突然降りかかる悲しいできごと、そこから明らかになる本当の気持ち。彼女が選ぶ人生とは…?
主人公の妙子を演じた木村文乃さんにお話を伺った。
ちゃんと一人の人間が生きている様を映し出すものとしてやっていきたい。
出演のオファーが来たときの心境を伺うと「この作品を入れる引き出しの準備ができていた」と答えてくれた木村さん。
「お話をいただいた時、ちょうど今まで自分がやってきたことを一度洗い流し、違うお芝居のアプローチを探りたいと思っていました。お芝居を仕事としてではなく、ちゃんと一人の人間が生きている様を映し出すものとしてやっていきたい。そう思っていたタイミングでいただいたご縁だったので、監督が18年の年月をかけて作り上げられた脚本の中の“大沢妙子”という一人の人間を精一杯生きてみたいと思いました」
演じた妙子のキャラクターについて伺うと。
「口数が少ないけれど、思いの強さがはっきりしている人です。ちゃんと意思があって、台詞がなくても行動に意思が出ていると思います。ただ孤独というか、救いの手が遠い人だな…と」
それでも現場はとても明るい雰囲気だったのだとか。
「夫役の永山さんとは身の上話で盛り上がりましたし、何より元夫役の砂田さんがとっても明るくてひょうきんな方なんです。砂田さんは普段から手話で会話をされるのですが、言葉がなくても感情が伝わるということを教わりました」
劇中で見事な韓国手話を披露している木村さんだが、手話での演技はこれが初めて。手話で演じる上でも砂田さんの存在が大きかったという。
「私は日本語の手話もできないので、韓国手話だからというハードルはありませんでしたが、普段から日本語手話を使っている砂田さんは大変そうでした。砂田さんが韓国手話の先生とやりとりしている様子を近くで見ていたのですが、それがとてもためになりました。お二人が何を話されてるかは全然わからないけれど、手話にも癖があることがわかりましたし、こういう風にコミュニケーションを取るんだと、とても勉強になりました。妙子が普段から当たり前のように手話を使っているように演じられたのは、砂田さんが近くにいてくれたおかげです」
愛があれば一人でも大丈夫。
作品を通して伝わってくるのは、人は誰しも孤独を抱えながら、それに気づかないふりをして生きていること。そして、その孤独が突きつけられたとき、どう向き合うのかという問いだ。そこで木村さんにも“最近孤独を感じた瞬間”を聞いてみた。
「先日、レスキューダイバーのライセンスを取ったときですね。最終試験はどこかに沈んでいる溺者役の方をたった一人で探さなきゃいけないのですが、そのときは女川の暗い海の中。かなり深くて長い距離を探さなきゃいけないので、途中で“あれ、ここどこ⁉︎ 私何してるんだっけ⁉”となってしまって。初めて海の中で孤独を感じました。でも、仕事上セルフコントロールが得意なんでしょうね。よし、一旦止まろう。時間を巻き戻してリスタートしようって立て直せたので、無事にレスキューダイバーになることができました」
この作品に携わり“人をちゃんと好きになること”を改めて意識したという木村さん。
「この作品に出演する前の私は、人とコミュニケーションを取る時間を苦痛に感じることがありました。普段から自分以外の人のことを理解したいと思っているので、なんでもない会話でも私にとってはすごいデータ量になるし、すべてが勉強になってしまうんです。それがヘビーに感じる時間が続いていました。でもこの作品を通して自分がちゃんと“人間”になれたような気がします。ひとりじゃないというか、愛があれば一人でも大丈夫だと思えるようになりました。ダイビングでひとりぼっちで怖いと思っても、振り返れば遠いところからインストラクターさんが見守っていてくれる。今までは震える足で暗がりにポツンと立ってるイメージだったんですが、今は明るいところで上を見上げてハッピーでいられます。
自分なりの「LOVE LIFE」言葉の意味を見つけてもらえたら。
最後に『LOVE LIFE』にちなみ、『LOVE』なものを伺うと「人間ですね」と笑った木村さん。作品の見どころを教えてもらうと。
「これまでの深田作品をご覧になった方にとっても、私を応援してきて下さった方にとっても新しい一面が見える作品になっていると思います。この作品は、とてもとても繊細なので、同じ感想を抱く人はいない作品だと思います。本作を通して自分なりの『LOVE LIFE』の言葉の意味を見つけてもらえたら嬉しいです」
木村文乃
1987年生まれ。2004年映画『アダン』のヒロインオーディションで応募者約3,000人の中から選ばれ、女優デビュー。以降、NHK連続テレビ小説『だんだん』、映画『ザ・ファブル』、大河ドラマ『麒麟がくる』、テレビドラマ『99.9-刑事専門弁護士-SEASON Ⅱ』『#家族募集します』ほか、多数のドラマや映画、話題のテレビCMなど、幅広く活躍中。趣味のスキューバダイビングはレスキュー・ダイバーの資格を持つほどの腕前。