努力したからといって、必ず成功するわけではない。【ハリウッド女優に学ぶ“オンナの生き方”】

舞台俳優としてコツコツとキャリアを積み、国内だけでなくオーストリアやイギリス、アメリカ制作の映画に端役としての出演を重ねながら現在の地位を築いた、ザンドラ・ヒュラー。

どんな仕事であれ、努力したからといって必ず成功するとは限りませんが、成功者はみな努力してその地位を築いているという事実をザンドラが体現しています。

映画「関心領域」ザンドラ・ヒュラー

時代は1954年、ホロコーストや強制労働により、ユダヤ人を中心に多くの人びとを死に至らしめたアウシュヴィッツ強制収容所。

その隣で平和な生活を送る一家の日々の営みを描いている本作は、第76回カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得し、第96回アカデミー賞では作品賞・監督賞など5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞を受賞しました。

監督のジョナサン・グレイザーが10年の歳月をかけて完成させた本作は、罪に対する“無意識の共犯”を描いているのです。

柔らかな風が吹き心地良い日差しが木々を照らす中、ひとしきり川遊びに興じた家族が邸宅に戻ります。

その家はとても豪華で庭は綺麗に整備されていて、裕福であろうその家族は何不自由なく生活していました。

しかし、その家の壁を隔てた隣からは、銃声や人々の断末魔の叫びが微かに聞こえてくるのです。

この作品では、“直接的な悲劇”は、映像として観客に提示されません。ほぼ終始和やかな家族の日常が淡々と描かれ、ソープオペラの序章のような緩やかな家族の会話が繰り広げられます。

しかしその隣のアウシュヴィッツ収容所では人類史上最も残虐な行為が行われていたのです。

その家を仕切る妻のヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)は、家で働くメイド達に労いの意味合いで大量の服を与えます。

メイド達はその服をうやうやしく手に取り各々が選ぶのですが、その部屋の窓の向こうでは大きな煙突から黒煙が上がっているのです。このシーンに細かな説明台詞はありません。

しかし、状況的に観客はこの服はナチに囚われたユダヤ人の物で、隣のアウシュヴィッツ収容所では、そのユダヤ人に対する残虐な行為が行われているという想像が頭をよぎるのです。

数年前から“承認欲求”という言葉が世間の認知度を高め、自分のことをより知らしめたいという一部の方の欲がネットを中心に浮遊しています。

しかし、他人からの関心を寄せるために過剰で過激な行為に及んでいる者がいるのも事実。世界的経済の疲弊で己の生活に必死になり、世の不正などへの関心が薄れている世界の現状に警笛を鳴らす本作を是非劇場で体験してみてください。

ザンドラ・ヒュラーは、東ドイツのテューリンゲン州ズールで教育者の両親の元に生まれました。

彼女は学生時代から演劇集団やワークショップに参加して芝居を楽しんでいましたが、1996年のベルリン演劇祭で舞台デビューすると、それまでの趣味の芝居ではなく本格的な女優への願望が強くなりました。

そして、演劇学校での勉強を経て、多くの舞台に出演したのちに映画業界にも進出。2006年公開の『レクイエム ミカエラの肖像』出演で、第56回ベルリン国際映画祭女優賞を受賞するのです。

その後も女優として着実に足場を固めてきたザンドラは、2016年公開の『ありがとう、トニ・エルドマン』への出演で注目を浴び、2023年公開の『落下の解剖学』(第76回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞)に出演し、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされるなど、世界中に名を知らしめました。

彼女は『落下の解剖学』と『関心領域』に出演したことでキャリアハイを迎えているのです。

いまや世界的セレブとなったザンドラ・ヒュラーですが、元々はドイツの小さな村で生まれ育ち舞台俳優としてコツコツとキャリアを積み、国内だけでなくオーストリアやイギリス、アメリカ制作の映画に端役として出演したこともありました。

しかし、彼女は腐ることなく愚直に女優として努力を続けることによって、ジュスティーヌ・トリエ監督やジョナサン・グレイザー監督と出会い、役者として成功しました。

どんな仕事であれ努力したからといって必ず成功するわけではありませんが、成功者はみな努力してその地位を築いているという事実をザンドラは体現しているのです。

関心領域

原作/マーティン・エイミス 「関心領域」(早川書房刊)
監督・脚本/ジョナサン・グレイザー出演/クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー 他

公開/5月24日(金) 新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテ 他
©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

Written by コトブキツカサ(映画パーソナリティー)

Profile/1973年生まれ。小学生の頃からひとりで映画館に通うほどの映画好き。現在、年間500本の映画を鑑賞し、すでに累計10,000作品を突破。1995年より芸人時代を経て、2010年より「映画パーソナリティー」としての活動を開始。近年は、俳優としての顔ももち、ドラマや映画にも出演。活動の場を広げている。

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