周りからのノイズを気にせず、望む未来への道を切り開く【ハリウッド女優に学ぶ“オンナの生き方”】

コメディエンヌから女優へ。そして、ハリウッドで最も影響力のある女性の一人となったウーピー・ゴールドバーグ。

黒人女性として差別を受けた経験や、文字を書くことが困難だったという学習障害を乗り越え、コンプレックスをパワーに変えて未来を切り開いた彼女に学びたい。

映画「ティル」ウーピー・ゴールドバーグ

舞台は1955年のアメリカ・シカゴ。

夫が戦争で命を落として以来、米空軍で唯一の黒人女性職員として働いていたメイミー(ダニエル・デッドワイラー)は、一人息子のエメット(通称ボボ)と平穏な日々を送っていました。

好奇心旺盛なボボは学校の長期休暇を利用してミシシッピ州の親戚宅に滞在することになります。

メイミーは黒人差別がより厳しい土地に息子を送り出すことに不安を覚えながらも、息子の成長をシカゴから見守っていました。

しかし、ある日雑貨店で白人の女性店員にボボが口笛を吹いたことがきっかけで、彼は白人集団に拐われて壮絶なリンチを受け殺害されてしまうのです…。

映画の冒頭、メイミーと息子のボボがデパートで商品を物色してレジに向かおうとすると、店員から“地下に特売品売り場がありますが”と言われます。この店員は、黒人はこのメインフロアで物を買わずに地下で買えと暗に示唆しているのです。

本作は実際に起こったエメット・ティル殺害事件の映画化なのですが、実際に当時のアメリカでは如実に黒人差別が蔓延っていて、特に南部では普通に生活を送ることすらままならない程の差別が日常的に行われていたのです。

ボボを殺害した人物たちが逮捕され、法廷でメイミーは陪審員にこの悲劇を訴えますが、危害を加えた者たちへの有利な証拠や証言だけが採用されて犯人たちは無罪となります。

するとメイミーは、“もう一度、彼らに息子を殺された…。”と嘆くのです。

これまで多くの映画で黒人差別が描かれてきましたが、僕が学生時代に最も衝撃を受けたのが、映画『ミシシッピー・バーニング』で、この作品も実際の黒人差別事件の映画化であり、舞台がミシシッピということで本作との共通性を感じました。

メイミーは息子の死を世間に訴えて行動したことで実際に多くの支持者を集め、彼女が亡くなってから19年後の2022年3月に【エメット・ティル反リンチ法】が成立しました。

この作品は過去の残虐な黒人差別を描いてはいますが、実際近年のBLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動に象徴されるように、いまなお現代が直面している問題なのです。

一人の母親が貫いた愛と正義の物語『ティル』を是非劇場で体験してみてください。

本作に出演そしてプロデューサーとしても参加しているウーピー・ゴールドバーグは、ニューヨークで生まれ8歳の頃に舞台デビューを果たし、その後はコメディエンヌとして活動を始めます。

そして出演舞台「ザ・スプーク・ショウ」が評判を呼び、この公演の録音がグラミー賞コメディ・アルバム賞を受賞するのです。

その後ウーピーは『カラー・パープル』で映画デビューを果たし、『ゴースト/ニューヨークの幻』での演技が絶賛されアカデミー助演女優賞を受賞。そしてコメディ映画『天使にラブ・ソングを…』主演で世界に名を轟かせました。

彼女は女優業だけでなくラジオ番組のMCとしての活動を始め、その後はテレビ番組のホストとしても活動。そして女性として初のアカデミー賞授賞式での司会を勤めたのです。

ウーピーは『ライオン・キング』、『トイストーリー3』など、声優としても活躍して、ディズニーから会社に対して多大なる貢献をしてくれたという理由から“ディズニー・レジェンド”という称号を授与されました。

葬儀屋の化粧師として働きながら舞台のエキストラ出演などを経て、遂にハリウッドで最も影響力のある女性の一人となったウーピーですが、黒人女性として差別を受けた経験や文字を書くことが困難だったという学習障害を乗り越えて現在のポジションを手に入れました。

彼女はハリウッドでのハンデを逆にパワーとしてキャリアを積んだのです。

ウーピーのように周りからのノイズを気にせずに自信を持って行動すれば、自分が望む未来への道が切り開かれるかもしれません。

ティル

監督・脚本/シノニエ・チュクウ

出演/ダニエル・デッドワイラー、ウーピー・ゴールドバーグ、ジェイリン・ホール、ショーン・パトリック・トーマス、ジョン・ダグラス・トンプソン、ヘイリー・ベネット 他


公開/12月15日(金) TOHOシネマズ シャンテ 他
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Written by

コトブキツカサ(映画パーソナリティー)

Profile/1973年生まれ。小学生の頃からひとりで映画館に通うほどの映画好き。現在、年間500本の映画を鑑賞し、すでに累計10,000作品を突破。1995年より芸人時代を経て、2010年より「映画パーソナリティー」としての活動を開始。近年は、俳優としての顔ももち、ドラマや映画にも出演。活動の場を広げている。

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