“自分が信じるもの”を選択する。助けを求められない女性へ、板谷由夏が伝えたいこと

板谷由夏さん主演の映画『夜明けまでバス停で』が公開される。これは、2020年11月に、路上生活をしていた当時64歳の女性が、渋谷区幡ヶ谷のバス停前で突然殴打され死亡するという悲惨な事件をモチーフに、高橋伴明監督がメガホンを取った作品。監督とは20年ぶりのタッグとなる板谷さんにお話を伺った。

弱みを見せられない、助けを求められない女性へ。

板谷由夏さんと高橋伴明監督がタッグを組むのは2001年に公開された映画『光の雨』以来。主演作としては、17年ぶりとなる本作のオファーを受けたときのお気持ちを伺うと、「“えぇぇぇぇ!”という感じです!」とひとこと。

「嬉しさではなくて、“どうしよう…”の“えぇぇぇ!”です。伴明監督とは、いつかもう一度お仕事をしたいと思っていたので、それが叶った嬉しさと、主演という驚きで、嬉しさより“どうしよう…”という感じでした。私に務まるのかと不安に思いつつも、でもやりたいと言ってくださるならやらなきゃ! という気持ちで引き受けさせていただきました」

本作『夜明けまでバス停で』は、実際の事件をモチーフにした作品。未だ収束の兆しが見えないコロナ禍における社会的孤立を描いた問題作だ。

板谷さんが演じるのは、昼間自作のアクセサリーを販売しながら、夜は焼き鳥屋に住み込みのパートとして働く三知子。

コロナ禍により突然仕事と家を失ってしまうのだが、自尊心が邪魔して助けを求めることができず、ホームレスへと転落してしまう。

「脚本を読ませていただいたとき、伴明監督の“今、この作品を世の中に発信しなければ”という強い想いを感じました。三知子のように弱みを見せられない、助けを求められない人は多いと思います。とくに日本人はそうじゃないかな? その中でも女性は、頑張らなければいけない場面も多いと思うんです。この作品にはそんな女性たちの貧困と連帯が描かれているので、伴明監督の今の日本に対する声が一人でも多くの方に届いて欲しいと思っています」

“なんとなくイヤ”、少しでもそう感じる事は選ばない

そう話す板谷さんも20代の頃は人に甘えるのが苦手だったそう。

「人を頼っていいんだ、甘えてもいいんだと思えるようになったのは30代を過ぎて子供が生まれてからですね。20代は一人で頑張らなきゃと気を張っていて、人に頼るなんて絶対無理でした。自分が甘えられるようになって、人を助ける側にもなれた気がします。と言っても大袈裟なことではなくて、話を聞いてあげるくらいですけどね。そんなときは相手の意見を否定せず、自分の意見も言わず、ひたすら聞き役に徹しています。人って話を聞いてもらえるだけでラクになることもありますからね。と言いつつ、どうしても年下には、あーだこーだと言ってしまうんですけど(笑)」

コロナで一変した私たちの日常。板谷さんご自身の生活にも変化はあったのだろうか?

「三知子ほどの激変はありませんが、“自分の信じるものを選択して進む”ということを改めて徹底しています。コロナ以前からも意識はしていましたが、ますます自分のアンテナをしっかりと張って物事をチョイスしていかないと、生きづらい世の中かなと。“なんとなく気持ち悪い”“なんとなくイヤ”、少しでもそう感じる事は選ばないようにしています」

あまり深く考えず、ストレスをためず、人に甘えながら楽しく

女優のほかにもファッションモデル、デザイナー、過去にはキャスターと、様々な肩書きを持つ板谷さんはとてもバイタリティに溢れた女性に見える。その原動力を伺うと、“私、基本的に欲深なんですよ”と笑った。

「食べたい・飲みたい・着たい・会いたい… とにかく楽しいことがしたいんです。“おいしい!”“びっくりした!”って、そういう瞬間に遭遇したいという欲が強いから、あれこれ挑戦しちゃうんだと思います」

そこで最近、楽しかったことを伺うと。

「相模湾まで船で海釣りに行ったことですね。鯵とか鯖とか、面白いほど釣れて。めちゃくちゃ楽しくて、ハマっちゃいそうです。あと、挑戦してみたいことは… そうですね、死ぬまでに一度は海外に住んでみたいかな。ワインとおいしいご飯と自然がいっぱいあるヨーロッパの田舎のようなところで暮らしてみたいです」

母親でもある板谷さん。“ご家族もご一緒に?”と伺うと、“いやいや、一人で”と笑う。

「子供達がもう少し大きくなったらの話ですけどね。“みんなが巣立ったらあとはママの人生だから”って、一人の時間を過ごせたら幸せですね。でも家族であることは絶対的に変わらないから、フラッと帰国してもいいし、家族が遊びに来るのももちろんウェルカム。そんな生活を一度はしてみたいですね。そのためにはとにかく健康でいないと(笑)。昔はストレスで胃が痛くなってばかりでしたが、今は上手に発散できるようになりました。これからもあまり深く考えず、ストレスをためず。人に甘えながら楽しく生きていけたら幸せです」

板谷由夏

1975年生まれ。1999年、映画「avec mon mari」で女優デビュー。その後、ドラマ「パーフェクトラブ!」を皮切りに、多くのドラマ、映画に出演。2007年からは「NEWS ZERO」に出演し、2018年までの11年間キャスターを務めた。また、映画の魅力を伝える情報番組「映画工房」でMCを務めるなど、マルチに活躍。2児の母であるとともに、自身が立ち上げたファッションブランド「SINME」のディレクターも務める。

「夜明けまでバス停で」

監督/高橋伴明 脚本/梶原阿貴 出演/板谷由夏、大西礼芳、三浦貴大、松浦祐也、ルビーモレノ、片岡礼子、土居志央梨、柄本佑、下元史朗、筒井真理子、根岸季衣、柄本明 他
公開/10月8日(土)より、新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサ 他

©2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

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