『つんドル』は、毒気や生々しさも含め、負の感情もリアルに描かれているところがすごく好き【深川麻衣】

─── よれよれのTシャツに、ボサボサヘア。乱雑に置かれた食べ終えたカップ麺を前に、“…どうか、少しだけ呪われろ”と毒吐く深川麻衣さん。

おっとりとしていて上品な彼女のパブリックイメージとかけ離れた『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(以下、つんドル)のポスタービジュアルに驚いた人も多いはず。

 あのセリフはひどいですよね(笑)。でも、やさぐれたくなっちゃう気持ちはすごくわかります。

この作品の面白さは、等身大のアラサー女性のリアルな悩みが赤裸々に描かれているところですが、実話と聞いて驚きました。

それと同時に、この役を自分が演じられるということが嬉しかったです。

─── そう作品オファーを受けた時の心境を答えてくれた深川さん。『つんドル』は元アイドルの崖っぷちアラサーの安希子が、友人の勧めで56歳で都内の一軒家で一人暮らしをするサラリーマン、通称ササポンと同居をするという“まさか”の選択をする実話のストーリー。

安希子と考え方の違いは結構ありますけど、結婚や仕事に対してもがいている安希子の姿に心を打たれました。

私は、アイドルから女優という、同じ世界の延長線上での転職でしたが、別の世界に足を踏み入れるときの不安とか、上手くいかなかったらどうしようという恐怖はすごくわかるので共感しかなかったです。

─── 深川さんの女優としての成功は誰もが知っての通り。そこに不安があったということに少し驚いた。

乃木坂を卒業したら女優をやりたいという気持ちは固まっていましたが、もし事務所が決まらなかったらどうしよう、お仕事が来なかったら…? という不安はものすごくありました。

でも、もしそうなったときに、東京に残って別の仕事をするのか、それとも地元の静岡に帰るのか、いろんな道を自分の中で考えてみたんですが、やっぱり“お芝居の道に進みたい”しか出てこなくて。

─── グループにいながらも女優活動はできたのでは… と、卒業を惜しむ人も多かったはず。

 はい、そう言ってもらえることもありました。

でも、グループにいながら経験を積むのか、卒業をして新しいことに踏み出すのか。その2択を迫られたとき、私は後者を選びました。

不安も怖さもあったけれど、人生は一度きりなので後悔はしたくなかったんです。

─── 『つんドル』の中では、親友の結婚や成功を素直に喜べない安希子の姿も描かれる。大好きな人たちを心からお祝いしてあげたいのに、自分と比べてしまって卑屈になってしまう。そんな自分が嫌になってさらに負のループへ…。

シビアに人気が反映されてしまうアイドルグループを経験した深川さんには共感できる部分があるのだろうか?

私は友達の成功が喜べないということはなかったのですが、自分が上がることで誰かが落ちるということに悩んだことはありました。

自分のことを多くの人に知ってもらいたいし、選抜にも上がりたいけれど、自分が選ばれるということは友達であり家族のような存在のメンバーの誰かが落ちるってことで…。それがつらかったです。

でも悶々としながらも、“これが自分の選んだ道だし、今できることをやるしかない!”と気持ちを切り替えていました。

─── 作品の中でも綺麗事だけが書かれてないところが好きと深川さん。

 友達が結婚したとき、セリフでは“良い人そうだね”と言うんですが、ナレーションでは“世の中は便利な言葉があるな”って(笑)。

その裏と表って、絶対に誰しもあることだと思うんです。

そこを綺麗に収めず、毒気というか、生々しさも含め、負の感情もリアルに描かれているところがすごく好きです。

─── 最後に、タイトルにちなんで、“詰んだ…”と思った出来事を伺うと。

イヤホンを洗濯しちゃったこと! ポケットに入れたまま洗濯してしまって、それに気づいたときは“詰んだ…”と(笑)。でも、2日くらい自然乾燥させたら復活したんです。

何事も焦らず、落ち込んでも時間が解決してくれることもある… かもしれませんね(笑)

─── 映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』は11月3日から全国公開。泣いて、笑って、毒吐いて。見事に新境地を開拓した深川さんの新しい姿に注目して。

『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』

原作/「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」
(祥伝社刊)大木亜希子著

監督/穐山茉由
出演/深川麻衣、井浦新 他

公開/11月3日(金)全国ロードショー

©2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと 住む選択をした」製作委員会 

深川麻衣

1991年3月29日生まれ。2011年乃木坂46の初期メンバーとしてグループを牽引する存在であったが、女優業に専念するべく、2016年にグループを卒業。2018年『パンとバスと2度目のハツコイ』で初主演。第10回TAMA映画賞では最優秀新進女優賞を受賞。その後、映画では『愛がなんだ』、『水曜日が消えた』、『おもいで写眞』、『ハウ』。ドラマでは「特捜9」、「サワコ〜それは、果てなき復讐」、「彼女たちの犯罪」など話題作への出演が続く実力派。

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